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『秀吉型』システム担当者とは? 

 雑誌の取材で計測器メーカーA社に訪れたときのこと。取材の最後に、システム担当者T氏に「システム担当者として必要なことは?」という質問をぶつけてみた。T氏からは「人の話をよく聞くこと」という、システム担当者らしくない答えが返ってきた。

 このA社は、業務の効率化や生産性向上に対し、積極的な取り組みを展開している。新技術の導入に対し寛容というか、チャレンジ精神に溢れるというか、IT技術の導入に関しては非常に意欲的だ。IP-VPNを始めとして、TV会議システムの導入、基幹業務システムの自社開発など、企業規模を考えれば、やや奇異に映るほど、システム刷新を繰り返している。そのため、T氏も新たなマニュアルの説明に東奔西走する毎日であり、その度に、各部署の不平不満を耳にするという。なかには、新しいやり方に対し、モーレツに反対する輩もいる。このような社内の火種を頭ごなしに抑えつけようとし、火に油を注ぐ情報システム部門も多い。

 友人の建築会社などは、IT導入にあたり、"若手中心の情報システム部門対現場オジサン連中"という図式が表面化してしまった。当然、T氏もこのような悩みを抱えているかと思いきや…全くそのような事態は起きていないという。  その秘訣は、『根回し』とT氏は明かす。A社のシステム担当者は、システム導入に際し、各部署に事前のヒアリング活動を行う。その際に、噴出した不平不満を最後まで聞き、理解を示す。そして、最後に「実はここだけの話だけど……」と決め台詞を放つ。この台詞の後は、「今回のシステムは実は営業さんのバックアップのためにね……」や「いや、製造サイドの仕事が大変という話を聞いていてね…、そのためになんだ……」なんて言葉が続くのだろう。これは、皆さんの想像にお任せということで。

 T氏は、こんな『根回し』を十分に行ったうえで、最終的に導入システムが会社にとってどれだけ有益で重要かを理解してもらい、使用してもらうようにする。現場の人も、納得したうえで使い始めるので飲み込みも早いという。

 この話を聞いたときに、僕はふと豊臣秀吉を思いだしてしまった。織田信長の家臣時代、秀吉は築城の達人だった。かの有名な「墨俣の一夜城」を始めとして、数多くの城を築き、異例の立身出世を遂げることとなる。

 前述した「墨俣の一夜城」の場合、信長の美濃攻めの成否をわける重要な築城であり、敵地に城を築くという悪条件が伴っていた。既に多くの家臣が試み、失敗に終わっていたが、この築城を任された秀吉は、まず現地に詳しい土着の野武士の棟梁・蜂須賀小六に協力を要請。そして、貧民育ちの秀吉は、野武士達の貧しさや苦悩を汲み取り「全ては乱世が悪い。この城を取っ掛かりにして、信長公が天下を目指す。天下泰平となれば、皆の生活も改善する」と説いて回ったのだ。

 俄然、やる気になった野武士達の協力のもと「墨俣の一夜城」は完成したのである。ちなみに、この時集まった野武士の数は1200人といわれている。強制するのではなく、まずやる気にさせて人を動かす。まさに、"人たらし・秀吉"の用意周到な根回し術といえよう。

 根回しに重きを置く姿勢を見ると、T氏はまさに『秀吉型』のシステム担当者。良く言えば「交渉上手」、悪く言えば「八方美人」。しかし、こんなシステム担当者は会社にとっても頼もしい限り。というか、T氏の笑顔を見ていると…頼もしいというよりイヤらしい(失礼!)。

 小難しい専門用語を覚えるよりも、こういった現場の処世術のほうが、ずっと役に立ちそうだが。(佐)